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「いや、どうも。恐縮です」
房一は彼等の姿が消えてからもしばらくの間、ぼんやり元の椅子に腰をかけて、たつた今彼等がそこを曲つて行つた入口の土塀、それで一所だけ区切られた表の道路、その向ふに稍高手になつた畑地、といつたやうな物を漠然と眺めていた。
「この人はちっと眠むがってるでな……」
「高間さん、ひとつ何とかして引上げさせて下さい。このまゝでは――」
それは言葉にするとこんな風なものであつた。
男は力なげに口をあけていた。
すさまじい怒気のやうなものが、房一のあらゆる部分に燃え立ち、彼のいかついむくれ上つた肩は二倍も大きくなつて見えた。それに圧倒されたものか、物音は止んで、房一が何かしきりと云つているのが聞えたが、間もなく二三人がごそごそ土手を降りて行つた。
それは正文にかゝりつけの患家だつた。
根津が箱根における化物話は、それからそれへと伝わった。本人も自慢らしく吹聴していたので、友達らは皆その話を知っていた。
と、房一はほつとした面持になつて云つた。
「うん」
「なに、消防演習?」